北緯43度


昨年、いや一昨年ぐらいから
家人の旅行趣味に益々拍車がかかり
旅の多い生活をしている。

それと言うのも
彼も私も、父親が60歳を前に早逝しており、
自分達にとってもその年齢が
遥か彼方の未来のことではないと
意識の端に浮かぶようになったからなのだろう。

元来慎重で洞察の深い性質の家人は
今は健康ではあるけれども
いつなんどき死が訪れてもおかしくないと考えているらしく、
堅い仕事の合間を縫うように
国内国外問わず
あちこちを訪れる計画を散りばめるようになった。
実際問題いつ死ぬかなんてわからないのだから
老後の蓄えもちゃんと考えているのかしらと
時折不安がよぎりはするが、
インドア派の私も毎回旅のお供をしている。
最近では家でぼぉっと過ごす週末が貴重になってきた程だ。

最近は6月の末に
ボルドーからバスクにかけて総勢8人で旅をしてきた。
よく一緒に食べたり飲んだりする仲間内で
半年以上前から計画していたのだ。
こういう時は基本テーブル集合で、
レストランの予約時間が最低限一緒に過ごす時間というのが
暗黙の了解だ。
各自勝手に飛行機もホテルも取り、観光や買い物もする。
おなかがいっぱいでホテルで休んでいたい人は、自分で戻る。
一緒に動いたほうが効率的な時は集うが、
自立した大人の旅行だ。

ワインに詳しい面々だったので、
ボルドーでシャトーを何軒か訪問した後にバスクに移動した。

バスク語では「ドノスティア」と呼ばれ
「ビスケー湾の真珠」とも称される
美しいサン・セバスティアンの街で数日を過ごした後は
すぐにビルバオに入ろうかと思っていたところ、
その二つの街の間に
「ガステルガチェ」という世界遺産があることを偶然知った。

石の橋でイベリア半島と繋がれた岩山のいただきに
サン・フアン・デ・ガステルガチェ礼拝堂があり、
なんとなくフランスのモンサンミッシェルを思わせる。
その島を見下ろすことのできる展望所までも
かなり急な坂道を上り下りせねばならない。
行くとなると、マルティン・ベラサテギでの昼食後になるため
お酒は体に残っているだろうし
なによりビルバオまで倍以上の時間が必要となって、遠回りにもなる。
散々悩みはしたが好奇心が先に立ち、寄ろうということになった。

6月の夏至のころのヨーロッパは
夜22時を回っても明るい。
バスクに行く前に立ち寄ったボルドーでは
ドルドーニュ河沿いで丁度ワインフェスティバルが開催されていて
夜は花火が上がるというので川沿いで待っていたが
夏というのに川風は冷たく
私達は待ちくたびれて部屋に入ってしまったのだけれど、
花火は結局23時半過ぎから打ち上げられたそうだ。
それというのもそのぐらいにならないと暗くならないからで、
日本人が夕飯を食べたり花火を見たりし始めたい19時頃なんて
まだ夕方の気配すらないのだ。

2019-06gastel.jpg


ビルバオへ移動する日は
13時からの昼食は17時前に終わるという予想通りの長丁場で
(翌日はそれ以上、6時間もかかって人生最長記録の昼食だった)
食べ疲れ飲み疲れた私達が
車に揺られてもうすぐ19時になろうという頃、
運転手さんは海を見下ろす道路に車を止めた。

「窓から見える?あの島がガステルガチェ」と示し
「うんうんわかっている」と頷く私たちに
なおも畳みかけて心配そうにいろいろ言っている。
なぜなら私たちは英語やフランス語等でたどたどしく応対するも
彼は基本スペイン語しか話せず、
行程表は渡してあるものの
今一つちゃんと理解しあえているという確信が持てないからだ。

つたない意思疎通にしびれを切らしてgoogle翻訳に頼ることに決め
iphoneに向かってお互いが自国語で話し
その翻訳を見せ合ってわかったのだが、
彼は「そこの犬の散歩に来ている人に聞いたけど、
礼拝堂まで往復すると3時間はかかるそうだよ」と必死に訴えていたのだ。
「途中の展望所まで行って帰ってくるだけだから、遅くとも1時間後には出発できると思う」
と返事をしたら少しほっとしたようではあったけれど、
それもそのはず、私たちは車の中でずっと爆睡していたのだから。

靴を持参のスニーカーに履き替え、
明るい日差しの中各々が水を一本買い
一寝入り後だったので快調に坂道を下り始めた。
しかし降りれば降りるほど帰りのことが心配になってきた。
あまりの急な坂に背後に重心を置かねばならないほどで
膝が笑いそうだったからだ。

それでもガステルガチェは、想像通り美しかった。
胡麻粒みたいに岩山の階段を登る人達が見えて
せめて海面に近いところまで降りたかったし
ここで見る夏至のころの夕焼けは最高に美しいらしいけれど、
降りるはいいけれど再び上がってこれる体力も
時間もなかった。

展望所からの帰り道は無理をせず、
かたわらに咲く山野草を写真に撮りつつ
往きの倍の時間を掛けてゆっくりと登った。

予想以上に日本で咲いている花と重なっていて
特にシシウド*1やワラビやツチアケビは
日本固有の植物のように感じていたので正直驚いたのだが、
後から調べてみたところ
実は世界中に広く分布しているのだそうだ。
スペインの人はワラビを食するのかしらと
坂道を昇りりつつ考えたりした。

2019-06basque.jpg


スペインから戻ってきて1か月後、
私達は北海道にいて釧路から根室に向かっていた。
長い雨がようやく上がって急に暑くなったのだと宿の人は言っていたが
花の多い季節で
めくるめく山野草が咲いていて夢のような景色だった。
穂咲きシモツケやフジバカマがそこかしこで大株で咲いている。
シシウド*1も沢山伸びている。
(*1 大型のセリ科の特定は結構難しいので、
エゾニュウやオオハナウドやオオカサモチの可能性もある)
高台から見下ろすことしか許されていない釧路湿原と異なり、
霧多布湿原はそのお花畑と化した湿原の中に遊歩道が設置してあり、
より身近に湿原を感じられた。

2019-07kiritappu.jpg



根室近くの海岸沿いでは
また少し植生が違って可憐な山野草がたくさん咲いていた。

2019-07nosappu.jpg


話は飛ぶのだが、
「マルセイユと札幌はほぼ同緯度」ということを
ワインの勉強をしていた頃に覚えた。
それ以来、その両都市から遠くないところにいると
自然と意識してしまう癖がある。

同じシシウドが咲いていたことから、なんとなく
ガステルガチェと納沙布岬の緯度を調べてみたところ
なんと、どちらも北緯43度だった。

そういえば、外国で日本並みに魚を美味しいと思ったのは
今回のスペインバスクが初めてだった。
市場で魚類を見ていても鮮度の種類も素晴らしく、
嫌な匂いがしない。
バスクでは魚を炭火焼で丸ごと焼いて食すると聞いて
「だってバーベキューでしょう?」と私達はたかをくくっていた。
魚を食べるには煮ても焼いても日本が一番だと思っていたが、
その思い込みを謝らねばならない程、
炭火焼の白身魚は素晴らしかった。

偶然の北緯43度。
スペインバスクにも北海道にも
山野草が咲き、海産物に恵まれた地だった。


20190808.jpg


花: 白花吾亦紅 千島金鈴花 仙台萩 穂咲七竈
器: 竹六斎作 六目網竹籠


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4 Comments

hippopon  

エルテさん、
おはようございます。

60代は黄金の日々とおっしゃった方があって、
まさに黄金の日々をなさってらしたんですね。
素敵なお写真とお話 大変うれしく拝見いたしました。

健康が幸せの基ですもの。
ご主人さまのために美味しい物、安らげる空間、素敵な奥様ぶrつたわりましたよ。
長く長くつづきますように、、
今や120を目指すじだいですよ後、半世紀も楽しめそう、
次のご旅行に向けて (o^―^o)ニコ

2019/08/09 (Fri) 05:01 | EDIT | REPLY |   

おけい  

旅三昧が羨ましい!

しばらく更新がないので、ご家族のどなたかがご病気かしらと案じておりました。
旅三昧とは羨ましい!食べ・飲むことができる元気があるうちに大いに旅を
楽しんでください。

8年前、スペインの巡礼路を歩いた時、私も日本と同じワラビを見つけ、スペイン
では食べないのかなあ、もったいないなあと思いました。

霧多布には行ったことがないのですが、お花好きにはいい場所と聞きました。
山野草には癒されますね。

2019/08/09 (Fri) 08:33 | EDIT | REPLY |   

えるて  

Re: hippopoさま

hippoponさん、お久しぶりです ^_^

60代以上を黄金の日々を送って過ごすには
30代40代50代をどう過ごすかが大切ですよね。
今のうちに頑張らないとな…
などと、ふと思うなんてこと自体が
以前はなかったことです。
着実に時は過ぎています。

そして昨日からまた、旅の途中にいます。
蝉時雨の中、朝は涼しさが感じられて、
東京の暑さは夜も朝も
ひと息つく暇がなくて
やはり尋常ではないですよね。

残暑厳しき中、
どうぞご自愛くださいますように ^_^




2019/08/10 (Sat) 07:28 | EDIT | REPLY |   

えるて  

Re:おけいさま

おけいさま、ご無沙汰しております。
なんだかゆっくりと文章を書く
気持ちの余裕がここ数ヶ月持たなかったので
久々の更新となり、
ご心配をお掛けし恐縮です >_<

バスクにいて何度も思い出したのは
かつてHさんが
サンチャゴ・デ・コンポステーラへの
巡礼の道を踏破なさったことでした。
毎日のテニスクラブへの往復にも
重い荷物を背負って訓練なさったのよねとか
1回目は確か相方さんが足の調子が悪くなられて
3回目は確かご兄弟と歩かれたのよね、
私達には到底真似できないねと
家人と話したことです。

今また違う形でスペインバスクが脚光を浴びていて
実際のところ、素晴らしく良かったので
また来年も訪れたい程です。
もう少し涼しくなりましたら
そんなこんなのおしゃべり方々
お誘い致したく ^_^






2019/08/10 (Sat) 08:56 | EDIT | REPLY |   

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