夜誘花


初秋の夕暮れ時ともなると
里山はあれよあれよという間に薄暗さを増し
鳥の鳴き声も帰宅を急がせます。

街灯に火が燈り、
気が急きつつ
足早に車へと向かう道すがら
はじめてこの花に出逢った時の衝撃は
忘れられません。

薄暗闇の中で
まるで美しい幽霊に出会ってしまったかのような驚きでした。
妖艶さと清らかさを併せ持つ
レースのような稀な姿です。

それが、晩秋の山で良く目にする
真っ赤な実のカラスウリの花だと知ったのは
随分後の事でした。


(再生時は音が出ますので、ご注意下さい)

カラスウリの立場になってみれば、
昼は光合成で栄養を得ることに特化し
生殖活動は夜にしようと決めたのでしょう。
暗闇の中でよく目立つ白い花で
夜行性の虫や蛾に気が付いてもらい
雄花から雌花へと受粉すべく、
無数に糸のように伸びた花びらの縁で
花を目立つように大きくも見せ
虫をとまりやすくもしているのだと思います。
植物に脳はないけれど、
考える力はしっかりとある証拠です。

あの絹糸のようなやわらかな部分は
指を触れると
絡まるかのように
ぴと、と吸い着いてきます。

蜜を吸おうととまる蛾は、
やんわりと捉えられるかの如く
花にとまったその時点で
既に主導権はカラスウリにあるのではないかと
少し恐ろしさを伴いながら
想像したことです。

カラスウリという名前ですが
カラスなどの烏は
実はこの実を食べないそうです。
唐から伝来した朱墨の「唐朱」の
その鮮やかな緋色が
このカラスウリの実の色に似ていることから
「唐朱瓜(カラシュウリ)」と
命名されたのではないかと推測されています。

男女が恋文(ふみ)の遣り取りをしていた古代においては
その文を届ける使者は
梓(あずさ)の木で作られた杖を持ち、
その杖に文を結び付けて持参したため
「玉梓(たまずさ)の使い」と呼ばれていました。

この「玉梓の使い」が後の時代に転化して
恋文そのものの事を「たまあずさ=たまずさ」と言うようになりました。
カラスウリの種は不思議な形をしていて
和紙を折り、結んだ形に良く似ています。
割り箸の箸袋を一結びして箸置きに使うような形です。
そこからカラスウリのことを
玉草(たまずさ)と呼ぶようになったそうです。

秋にカラスウリの赤い実を見つけたら
そっと割って中の種を取り出してご覧になってみて下さい。
きっと、小さな驚きが詰まっています。


20180914jpg.jpg


花: 烏瓜
器: ガラス 王子水瓶 瀬沼健太郎 

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2 Comments

祐子  

私がカラスウリの花を初めて見たのは、中学生の時でした。
一人で河原を散歩した帰り道、突然出会いその不思議な
美しさに驚き・・・一体これは何・・・!?
正に、美しい幽霊でした。
久々に忘れていた記憶が蘇りました。
それと共に、あの頃自分が何に惹かれていたのかも
思い出し、今後の生き方の道しるべともなる気がしました。

2018/09/21 (Fri) 21:47 | EDIT | REPLY |   

えるて  

Re: 祐子さま


類まれな物と出逢うと
思わず足が止まってしまいますよね。
私も始めてカラスウリの花を見つけた時の事は
その場の雰囲気まで含めて
スローモーションのように
覚えています。

2018/09/22 (Sat) 21:40 | EDIT | REPLY |   

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