旧盆の候


わたくしの生家は山深い禅寺で
東の方に回ると
眼下に集落を見下ろせるような
小高い丘の上にありました。

幼い時分は寺の中に
夜になると恐ろしく思える場所が
そこここにありました。
夕飯の後、寺の端の書院の
隣の部屋にあるピアノを練習した後は
どこにも眼もくれず
韋駄天のように主屋に走って戻りました。
夜中の仏像の玉眼は怖いのです。

ある夜、
若い女性二人が
ご挨拶にみえていました。
大学の夏休みで
帰省中だったのだと思います。

ひとしきりおしゃべりした後、
2人だから怖くはないと
真っ暗な中懐中電灯を手に持ち
山門の外の石段を降り始めた
その後ろ姿を見送って
障子を閉めた直後のこと。
半分腰が抜けたようになって
這々の体で石段を這い登るが如く
彼女達が戻ってきました。

「お、おねいちゃんが、出た!」

その姉妹には本当は姉がいたことを
その時始めて知りました。
死産だったのだそうです。
もう殆ど火葬に変わっていた時代にも関わらず、
赤ちゃんだったからか
理由は定かではないのですが
土葬されたのだそうです。

寺の石段を降り始めてすぐに
右の方を見遣ると、
道路を挟んで500m程先に
檀家の墓山が広々と見渡せます。
その夜は月のない闇夜で
真っ暗で何も見えませんでした。
けれど昼間その石段を降りる度に
家の墓がどの位置に見えるか
感覚で覚えこんでいるのでしょう、
間違いなくその辺りで
青い光がふわふわと揺れて
2人とも瞬間的に
あれは姉だと思ったのだそうです。

こう蒸し暑いと、リンが飛ぶからねぇ…
お姉さんなら貴女達に悪さはするまいよ。
母は思いの外冷静で
その事がまた
幼い私には驚きでした。

草が噎せ返るような青い香りと
うだるような暑さの中に
しんと静まり返った
時間の軸がある。
夕方のカナカナと鳴くヒグラシの鳴き声が
もの寂しく聞こえる。
旧盆の頃の心象風景です。


20180814.jpg

花: 蓮 粟
器: 常滑 不識壷(鎌倉時代)

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