赤ちゃん


私の育った家は小高い丘の上にあり
石段を何十段か上ってくると
門の右前には一本、
その横の車道の左側にも一本
大きな松が植わっています。

私は幼少時、
花粉症は花粉症でも
赤松花粉アレルギーと診断されたそうなのですが、
3階建ての建物程そびえている
目の前の樹齢300年と言われる松に
母はなすすべもなく、途方に暮れたそうです。

そこは粘土質の赤土土壌で
門の横に続く竹林では
えぐみのない良いタケノコが採れます。
松の根元には大きな蟻がいたりして
時折子供の遊び場になったのですが、
3歳か4歳のある春の日
「とんでもない物を見つけてしまった!
これは大変な大発見だ」と
叫び出したいのを我慢しつつ
しゃがみこんだまま
ある植物の芽出しを凝視しました。

matsu_mebae.jpg


細い細い針金のような物を束ねて
上下からぐっと圧力を掛けたら
こんなふうに広がるでしょうか。

幼いながらも、
それ迄見たことのあるどんな植物とも違います。
幾何学的でもあり、
こんな素晴らしい物を見たことある人はいないに違いないと
勢い勇んで親のところへ走って説明したところ、
思いがけない程あっさりと
「あぁ、松の芽生えよ。
あの大きな松の赤ちゃん」と告げられました。

そんな馬鹿な、と見直しに行ったが最後、
上に被っていた種皮が弾けて
魅力的に束ねられていた松の幼葉は
放射線状にひょろりと
頼りなさげに広がってしまいました。

あの後観察をした記憶がありませんが
幼いなりに酷く落胆したことは
今も記憶に残っています。


そんなことを思い出したのは
先日里山の道路際の斜面に
鮮やかな深い緋色の豆状の物が張り付いているのを見付けたせいかもしれません。

これは一体何だろう…と周りを注意深く見渡すと、
あるわあるわ、10個や20個どころではありません。
色味も亜麻色のようなベージュに近い物から
似せ紫と呼ばれる茶色がかった深い紫。
浅蘇芳や弁柄色、和の色の標本市さながらです。
弾けたばかりのどんぐりの殻がついていなければ
それがドングリの赤ちゃんだとは
すぐにはわからなかったと思います。

ブナ科の木の生い茂っている林床なので
ドングリの形状も様々です。
ひと月もすれば
緑色の葉っぱが出て来るのでしょう。
生えている場所柄
大きくなることなく下草と共に刈り取られてしまうのだと思うと
ぐっと迫るものがあり、
赤みの綺麗な子を家に連れて帰りました。
「赤ちゃん」とは良く言ったもので、
人間に限らず、
どんぐりも芽出し期は真っ赤なのだと
今更ながら知り、
自然の神秘を知ったような気分でいます。


20180306.jpg


花: 能登の流木 椎 忍冬
器: 胡銅 亜字型華瓶(室町)


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