花器の竹の落としの修理


直接水を入れることの出来ない籠や
カビの生えやすい竹花入れ、
水の漏れやすい土器などの器には
その器の材質や雰囲気に適した「落とし」を用います。

落としの材質は陶磁器や竹、
ガラスや金属などさまざまです。

そのなかでも「竹」は
器に馴染みやすい素材である反面、
十文字などの花留めを
内側に張って圧力を掛けることにより
竹の繊維に添って割れが生じたり、
重い木質のものをどんっと入れるような不注意によって
底にあたる節の部分にヒビが入ったりして
不具合が出やすい落としです。

竹の繊維に添って縦に入ったヒビは、
漆などで補充して修理をしようとも
亀裂が一文字や十文字を掛ける部位に近ければ、
使用の際に圧力を掛ければ再度ヒビが入り
無駄手間となることも多いので、
基本的には消耗品扱いです。

とはいえども、
器に合わせて竹を削り、
漆を塗ってある落としを再度誂えるには
万単位の出費になります。
以前お願いした際は
3cm×20cmぐらいの塗りの落としが
4万円程の請求でした。
さすがにちょっとびっくりしたのですが、
落としの格を器にあわさせて頂きますと言われ
なるほどなぁと思いました。
とても良い籠の落としだったからです。

竹を元と同じ寸法に削って
下地を付け何度も塗って、
これが落としではなく
輪島塗の良い碗を誂えたらと思ったら
そのぐらいかかるかもなぁとため息が出ました。

落としは器の中に入れ込み、
基本的には隠れてしまうものです。
器のキワからは見えやすいので
その点は器とのバランスを注意せねばなりませんが、
自分で修理して寿命を永らえることはできらないかと
あれこれ調べ、試みています。


2017_1110_1.jpg

この落としの場合は、
下の方の漆がはげたところに
亀裂が入っています。

この割れが内側まで貫通しているか確かめるため
亀裂の高さまで注水してしばらく放置したところ、
じんわり水が沁み出してきました。

他にも傷んでいる可能性がありますが、
とりあえず器を完全に乾かして
この亀裂を補修します。

経年によってなるべく痩せ細らない素材で
強い強度があり、
なおかつ弾力性のあるものが良いので、
今回は以下のエポキシパテを用います。

purastickpate.jpg

このエポキシパテには
金属用や木材用などもありますが、
このプラ用が最も弾性に富むようです。
今回の亀裂は
花留めなどで頻繁にテンションが掛かる部分ではないので、
硬化後にカチンカチンに固まる金属用のパテなどでも問題ないと思います。
(なのにどうして
こんなところに亀裂が入ったのか、
そして漆がはげていたのか、
見当がつきません…)


今回の亀裂を埋めるのに使う
実質的なパテの量は小さなひじき一本ぐらいの微々たるものですが、
僅かな量でよい場合も
最低でも5mm程(マカロニ一本分ぐらいの総量)を切り出すことをお勧めします。
エポキシパテは通常
A材とB材を練り合わせて使うのですが、
このパテのようにA材をB材で巻いてあって
使う量程切り出した後に練り合わせるようなタイプのものは、
量が余りに少ないと
AB材のバランスの均整を図るのが難しいからです。

エポキシパテは皮膚にねっとりと付着しやすいため、
ビニール手袋を使うことをお勧めします。
A材とB材が混ざって色が均一になった後
粘度が増すまで良く練り、
パテの伸び(粘着性)が高まったら
隙間にこすりつけるようにして埋め込みます。

2017_1110_4.jpg

しっかりと埋め込みました。

隙間以外についてしまったパテを
硬化する前に完全に拭き取ります。

2017_1110_5.jpg

このパテは、一時間程で完全硬化しますので、
しっかり固まってたのを確認した後に
亀裂の高さまで水を入れて放置してみましたが、
水漏れは止まっていました。
補修は上手くいったようです。

今度は落としの水際まで水を満たし、半日置いてみました。
全く漏れなかったので、
水漏れの原因はこの亀裂のみだったことがわかりました。

最低限の水漏れ対策は完了しましたが、
漆のはげてしまった部分にも補修をします。

今回使用するのは「新うるし」という
竹の釣り竿用に開発された、
ウルシ科の植物が原料の塗料です。

本物の「本漆」は、高温多湿の状態をキープしなければ固まらない
特殊な樹脂塗料です。

なので、通常は「ムロ」と呼ばれる
高温多湿な環境を作って静置して
乾く(固まる)のを待ちます。

しかしこの「新うるし」は
塗った後普通に置いておけば硬化するので便利で、
かぶれることもありません。
質感も本漆に比較的近いので、
こちらを用いてみます。

2017_1110_6.jpg

派手に剥げています。 
塗りは騙せるとは良く言ったもので
下地が殆ど塗られていないようで、
漆が浮きやすくなっているせいでもありそうです。

2017_1110_7.jpg

240番の耐水性紙やすりで軽くサンドペーパーを掛けた後、
同色の黒い新漆を塗って乾かすことを2回繰り返しました。
どうしても塗料の凹凸が出ますので、
気になる場合は
乾くたびに400番のサンドペーパーを掛け、
もう一度上塗りします。
表側も、漆の削れていた部分にのみ塗りました。
どうしても元々の漆と質感が異なってしまいますし
塗料の段差も出ますが、
全てを塗ると風合いも変わって参りますので
今回は目立たなくなればそれでよし、ということで納めました。
元々の漆の劣化のため、新たに激しくはげはじめた際には
元々の漆まですべてサンドペーパーで落として
塗りなおせば良いのだと思います。

とりあえず、捨てずに使い続けられそうで一安心です。


20171110.jpg

花: 莢蒾 牛尾菜 紫陽花 嫁菜 家菊
器: 手付籠

この籠は、籠の内側にぴったりのサイズで
銅で落としが作られています。
水も3リットルは入るので、結構な重量になります。
それゆえ、このような籠のお約束ではありますが、
持ち運びの際に絶対に「手」を持ってはなりません。





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2 Comments

みゅうぽっぽ  

お早うございます!落としと一言に行っても外の花器に引けを取らない位手がかかっているのですね!私は落としは竹、プラスティックの筒、蕎麦ちょこなどを使っていますがここまで気を使うと素晴らしいですね!!新漆、口を付けないものだけ金継ぎまがいで使った事があります。新漆、こうやって使えば良いのですね!

2017/11/16 (Thu) 08:08 | EDIT | REPLY |   

えるて  

みゅうぽっぽ

新うるし、わたしも食器の金継ぎで使っています ^_^ 金継ぎのことも今度書きますね。

2017/11/16 (Thu) 09:46 | EDIT | REPLY |   

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