物にまつわる人の気配 その2


パリのオルセー美術館の裏通りからサンジェルマンにかけては、
古本屋やインテリア関連のお店に混ざって
小さな骨董屋がぽつぽつあります。

日本で「アンティーク」というと、
雑貨や古道具のイメージが強いのではないかと思いますが、
そういうたぐいの物は
フランスでは「ブロカント」と言って
マレのヴィラージュサンポールなどはまさにそれで
古道具屋が何軒か集まっています。
クリニャンクールやヴァンヴは良い家具も雑貨も民具などもまぜこぜの大きな市場で
ルーブル美術館の裏のルーブルディサンティケールがお宝系の高級骨董屋集合ビルだとすると、
オルセーの裏側は、ちょっと玄人好みの骨董屋さんがあるかなと思います。

ワインの品揃えの素晴らしい
老舗の美味しいヴェトナム料理屋さんがそのあたりにあって、
お昼時なので久しぶりに行こうと
向かっていたところ、
傍らのお店のショーケースの中にふと目が留まりました。

建盞です。

けんさんは天目茶碗(てんもくぢゃわん)の総称で、
中国福建省にあった建窯にて宋・元代に作られた物を言います。
曜変(ようへん)天目・油滴(ゆてき)天目などが有名で、
日本では3碗が国宝になっています。 

ショーケースの中の茶碗は
その中でも禾目天目茶碗と言われるものです。

良い形です。

足を止め値段を確認したところ、
€4000でした。
想像していたより安いのにまた、驚きました。

帰国して中国陶磁の先生に伺ったところ、
昔と違って発掘調査で随分と数が出たから
そのぐらいの値段でも偽物とは言えない、とのことで
なるほどなぁと思ったことでした。
もう10年程前のことです。

けれど、当時の私が一番驚いたのは
値段でも何でもなく、
その茶碗の風貌でした。

日本の美術館で見ることのできる天目茶碗は
鎌倉時代頃から日本に輸入されはじめ、
茶人達が大切に大切に使ってきた物ばかりです。
大切に使われてきた物は
厚みのある独特の雰囲気をまとっています。
特に茶道具の茶碗となると
直接肌に触れるものですから、
妖艶とも、生気とも、緊張感とも言えるような
なんともいえない雰囲気です。

けれどその骨董屋のショーウインドー越しに見た茶碗は
ずっと何百年も孤独に土に埋まっていたので
生気がなく、肌も白っぽくかせています。
たとえていうならば、ミイラのようでした。

ほぼ同じような茶碗が
土に埋もれていたことによる影響より
あんな悴せた風貌になる…ということよりも
代々所有者が大切にし、愛でてきたことによって
人の気配が茶碗にまつわって
まるで、無機質な物に命を吹き込んだように変わっていくことの方に
ドキリとしました。




20171027.jpg

花: 天南星の実 蔓梅擬 金水引 姫女苑
器: 野葡萄古籠



関連記事
スポンサーサイト

2 Comments

みゅうぽっぽ  

お早うございます!!天目茶碗、私も大好きです。日本人は本当に一つ一つの物を大切に綺麗なヌので包み箱に入れ、またその箱を更紗などの布でくるみ大切にしますね。その最たるものが正倉院、ガラスの切り子のお茶椀!アラブの方で出土した物はやはり土に埋もれ銀化してますが正倉院のガラスの切り子のお茶椀はとってもそんな昔のものとは思えないほど綺麗です。でも私、銀化したお茶椀もなんとなく好きです!正倉院展、今年は残念ながら見に行けません。

2017/10/30 (Mon) 09:01 | EDIT | REPLY |   

えるて  

みゅうぽっぽ さま

白瑠璃碗ですね。 
あの切子の茶碗のもととなったであろうガラス碗も出土していて、
まぁるい形がやわらかくて可愛いのですが、
それに切子を施して
緊張感のある美しさに仕上げた方が良いとした古代の人の感性に、
ちょっと驚きます。
今のような電動のリューターやグラインダーがあったわけではないですもんね。


2017/11/01 (Wed) 23:15 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment

←お返事は基本当ブログ内で致します。ご面倒をお掛けしますが再度お越し下さい