麦草峠


麦草峠は
長野県茅野市と佐久穂町の境目にある峠で、
八ヶ岳を構成する丸山と茶臼山の間にあります。

国道では国内で2番目に標高の高い場所だそうで、
峠付近はなだらかではありますが
その峠の西側も東側も厳しいヘアピンカーブです。

先週八ヶ岳におもむいた際は
梅雨時らしく薄曇りで肌寒く、
その厳しい勾配の
くねくね曲がる狭いカーブを何度もやり過ごしていたら
ほんの10メートルだけ霧が真っ白に立ち込めた場所があって
一瞬視界が奪われました。
なにせ車で通り過ぎたので
霧の濃さに驚いた次の瞬間には
目の前が開けて
霧の中を抜けていました。
まるで1秒間の手品みたいで、
あれは、沢でもあったのかしらと
今になって思っていることです。

標高1400メートルから上のあたりは
霧がかった場所が多い日でした。
ヨーロッパのような牧草地帯に
霧の立ち込める中から
ふわっと何頭もの黒牛が姿を見せたり、
幽玄な雰囲気の森に
見事な枯れ木が一直線に続いているのが見て取れる所が何カ所もあったり、
(後で調べたところ、この辺りに特有の
「縞枯れ」という現象だと知りました)
いろいろと不思議な感覚に包まれていたところ、
地面近くに咲く白い花の群生が目に入り
停めてもらった場所が麦草峠でした。

どんよりとした曇り空ではあるものの
峠はすっきりとした視界で、
今登って来た
小海の方からの道を振り返ると
坂道をゆるやかに
霧がうねって昇ってくるのが見えました。
風向きと気温の按配で起こる現象に違いないのに、
直径5m程の半透明な生き物が
意思を持ってこちらに向かって登って来ているかのように思え
一瞬恐ろしく感じました。

けれど、現代の生活を送る私達に
その恐怖心は
ちょっと必要なんじゃないかと思ったりもしたのです。
自然は美しいけれど恐ろしいし
計り知れないということを
どこか忘れて生活しているからです。

霧を怖く感じた後、
龍や鳳凰などの瑞兆のおしるしとされる生き物は
このような自然現象が
珍獣に見えたのではないかと
ふと思いました。

横山大観の「生々流転」(東京国立近代美術館蔵)は
山の谷間にこもる霧の水滴が
渓流へと合し、後に大河となり海に注ぎ、
悪天候の末に龍へと化して天に登って行く変遷を
墨の一色で描かれた40mもの長い大絵巻です。

横山大観 生々流転

生々流転とは
万物が絶え間なく変化し
変遷してゆくことを意味します。
鴨長明の「方丈記」の冒頭の名文もまた
それを表したものではありますが、
方丈記が天変地異などに影響される無常観を
延々と説かれるのを読んでいると
気分が沈む思いがするのと異なって、
大観の「生々流転」の
ゆっくりゆっくりと観進めて行った後に
最後は晴れ晴れとするような感覚は
なんとも有難く思えます。


そんなことを思い出しつつ
麦草峠でしゃがんで見た
小さな白い花は
7月から8月に咲く
コガネイチゴという高山植物でした。
春と夏とのはざまにいて
夏本番の下界の熱気など知らないかのような
清らかな姿でした。


20170703.jpg

花: 落葉松(猿麻桛) 二又一華 乳茸刺
器: 常滑 経塚壺(平安)


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2 Comments

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