赤ピーマンのムース


パリのマレ地区、
ヴォージュ広場にある
「ランブロワジー」を訪れたのは
もう20年も前のことです。

フランス語は挨拶程度しかわからないので、
行先の住所を記した付箋を
家族はいつも用意しており、
タクシーに乗る際は運転手の方にそれを渡していました。

その日も
コンコルド広場のホテルの前で
タクシーの後部座席に乗り込むと、
運転手さんに紙を渡しました。

はいはい、と
気軽に受け取った運転手さんは
明かりをつけて住所を確認するなり
硬直したかのように見えました。
次の瞬間、うぅ~んと声にならない声を発しているので
おかしいな、と思い
「何か問題でも?」と話しかけると
運転主さんは紙を凝視しながら
「お前達は本当に、これからここに行くのか?」
と探るように聞かれました。
同乗していた家族は、
まだ若いアジア人如きが
こんなレストランに行くのかと驚かれたと思ったらしく、
「Sure!」と
行く気満々の言葉を返しましたが、
何か嫌な予感のした私は
「ぱるどん」と断って
運転手さんの手から紙を引き抜きました。

お店の名前は 「L'AMBROISIE 」です。
なのにそこには「LAMELOISE」、
つまりその数日後に行くはずのレストラン名が書いてありました。
お店の名前が違うこと自体問題ですが、
そんなことよりも
運転手さんにとって信じがたかっただろうことは、
そのお店の住所が
シャニーという
パリから南に300kmも離れた
ブルゴーニュの片田舎だった事だと思います。

「これ、ラムロワーズ用の。
はじめの3文字だけは
合っているけれど…」と告げると、
今度は自分の失態に気付いた家族が
雷で撃たれたかのように飛び上がり、
慌てて付箋の束の中から
行くべきお店の住所を記した物を探し出しました。

正しい住所の書かれた紙を渡した時の
運転手さんのほっとした表情と
その後3人で大笑いしたことは、
今でもありありと思い出せます。
陽も暮れた頃、とんでもない客を乗せたものだと
運転手の方は脂汗をかかれたに違いありません。

そのレストラン「ランブロワジー」のスペシャリテに
「赤ピーマンのムース」があります。
三田の慶応大学の近く、「コートドール」の斎須シェフは
ベルナール・パコ氏と共に
二人でランブロワジーを立ち上げられた方で、
このメニューの立役者でいらっしゃいます。
斎須さんはその後ご帰国なさって
「コートドール」という
いぶし銀のような名店を開かれ、
この一皿はコートドールのスペシャリテでもありますが、
パプリカの季節が旬に至っていないからか
先日はメニューに上がっていなかったため、
私流に作ってみました。



ピーマンのムース

赤パプリカ(大) 2個
新玉ねぎ (中) 1個
バター      大さじ2
塩        小さじ1
板ゼラチン    6g
生クリーム35%  200cc


トマトソース

トマト(完熟の赤い物) 大3つ
トマトペースト  3g程
レモン汁  小さじ1程度
オリーブオイル 小さじ1程
一味唐辛子 もしくは タバスコ 少々


1・トマトを横に2~3つにスライスし、一晩皿の上で風干しする。
トマトの水分が飛んで、味が凝縮する。
(フルーツトマトを使う場合は、この工程は省けます)

2・板ゼラチンを水に漬ける。
パプリカは種とヘタを取り、薄切りにする。
玉ねぎも薄切りにする。

3・小さめのお鍋の中に
バターと玉ねぎ、パプリカを入れ、炒める。
くたっとし始めたら塩を加えてごく弱火にし、
蓋を閉め、時々焦がさないように混ぜながら、
20分ぐらい蒸らし炒めして十分に柔らかくする。

炒め加減にもよりますが、
味を濃縮する意味もあるので
なるべく野菜の持っている水分だけで蒸すように炒めたいです。
強火はご法度、
鍋底の薄いものをお使いの場合は
焦げやすいと思うので
すこし水分を入れながら炒めても良いと思います。
お好みで、白ワインだったり、チキンブイヨンだったり入れるのも
悪くはありませんが、
パプリカの味が薄まるので、
私はあまり好みません。

4・鍋底にまだ水分が少し残った状態で火から下ろし、
熱いうちにミキサーにかける。
ピューレ状になったら、ザルで裏ごしし、余分な皮などを除く。

5・裏ごしの終わったパプリカを改めて鍋に戻し、
水で戻した板ゼラチンを入れ、溶かす。
ゼラチンが溶けきらなかったら、ピューレに少し熱を入れるが
決して沸騰させることのないようにする。

*ゼラチンの溶ける温度は50~60度です。
 そしてゼラチンはたんぱく質の一種ですので、
 60度を超すと変質が始まり固まり難くなります。
 液体に指を入れて、なんとか1秒待てる程度の温度が60度ですので
 目安になさって下さい。

6・レモン汁を入れて混ぜ、味を確認する。
物足りなければ、塩やレモン汁、少しの砂糖を追加する。

7・鍋底を氷水につけて冷やし、時々混ぜる(部分的に固まらないようにするため)。
別のボウルで生クリームを泡立て、
ピューレが冷たくトロンとしてきたら生クリームと合わせ、
蓋つき容器に流し入れ冷蔵庫で半日以上冷やし固める。

8・トマトソースを作る。
トマトを、ざっと軽くプロセッサーかミキサーにかける。
トマトの皮と種を取り除くためにザルで濾し、
トマトピューレを作る。

はじめに皮を湯剥きしても、
直火で焼いて剥いても良いのですが、
皮と身の間の部分に一番赤い色素があるので
それを大切にしたいため、このような方法にしています。
種も、先に抜いてもいいのですが、
種周りのゼラチン質も欲しいので一緒にしています。

9・トマトピューレの水分と固形分をおおまかにわけるために、
鍋の上にキッチンペーパーを敷いたざるを乗せ、トマトピューレをあける。
水分が切れたら、固形分を取り置き、
トマト水の入った鍋を火にかける。
水分が半分になったらトマトペーストを混ぜて溶き伸ばし、
固形分の方と同じぐらいの硬さになったら火を止め、
固形分を入れて合わせる。

フレッシュさと濃縮感があわさった感じであれば成功です。
足りない酸味はレモン汁で、
あとは塩と、オリーブオイル、
トマトの加減によっては砂糖か蜂蜜を混ぜても良いです。

スプーンですくって盛り付けますが、
1人分ずつ器に流し込んで作ってもらくちんで良いです。


野菜って美味しいなぁと思う一品です。



20170323.jpg


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6 Comments

おけい  

お見事!

すごい!あの赤ピーマンのムースを作ってしまうなんて。
斉須シェフの著書「十皿の料理」は持っていますが、自分で作ろうと
思ったことありません。

昔、コート・ドールに友人を案内した時、前菜でこのムースを味わい、
これだけ2皿食べたいと彼女が言ったのが忘れられません。
5月頃になれば、アミューズで登場するはずなので、今から楽しみです。

2017/03/25 (Sat) 10:22 | EDIT | REPLY |   

Piyosophy  

ヴォージュ広場

花と同じくお料理も手を抜かないえるてさんを見習わないといけません。とても美味しそうです!
実は、ヴォージュ広場に昨日いました。でも、こちらのお店に入る訳ではなく…
L'AMBROISIE、ちょっと特別な時に是非訪れてみたいですね(^^)素敵な情報ありがとうございます!

2017/03/25 (Sat) 18:25 | EDIT | REPLY |   

えるて  

おけい さま

こんにちわ!

私は斎須シェフの本を持っていなくて、
他のレシピを参考に
足したり引いたりして作ってみたのですが、
もしかすると斎須さんは
ゼラチンをお使いにならず、
赤ピーマンをぐぐ~っと煮詰めて
野菜のねっとり感だけで
お作りになっているかもしれません。
だとしたら、すごいなぁ、と。

> 5月頃になれば、アミューズで登場するはずなので、今から楽しみです。

是非ご一緒に ^_^

近々、テールの赤ワイン煮も
作ってみようと思っています。

2017/03/25 (Sat) 23:38 | EDIT | REPLY |   

えるて  

Piyosophy  さま

こんにちわ!


手、抜きますよ(笑)

キッチンに立つことすら
面倒だと思う日はもちろんあって、
冷蔵庫から出すだけ、とか
温めるだめで美味しい物を
余裕のある時に
まとめて常備菜として
作り溜めています。

このムースも何日か持つので
お客様のいらっしゃる日に作って
あとは残りをパンに塗るとか、
スクランブルエッグの横に添えるとか、
使いまわします。

何もしない日は、
まるで軟体動物のようにべろんとしていて
人間とは思えない姿に違いないです(笑)





2017/03/26 (Sun) 22:38 | EDIT | REPLY |   

RINZEN  

NHKの再放送を見て

何年も前にベルナール・パコが来日した際、彼は「きょうの料理」に登場し、この一品を披露してくれました。それが昨年(だったと思います)再放送され、どうやって作るのか見ることができました。

画面から伝わるベルナール氏は、力強さの中にやさしさを秘めた、そんなかんじの方でした。

また、ベルナール氏の横で斉須シェフが通訳をされたのですが、TVに登場するという緊張感からか、お顔がこわばっておられたのが印象的でした。

こんな手間のかかる料理をスイスイ作ってしまうなんて、えるてさんはすごいですねえ。

2017/04/07 (Fri) 07:52 | EDIT | REPLY |   

えるて  

RINZEN さま

こんにちわ!

そんな番組があったのですね!
私も観たかったです
斎須さんのお料理の美味しさもさることながら
お人柄も素敵だよなぁと思っています。

お料理スイスイ…でもないのです。
一番イカンのは腰の重さですね(笑)


2017/04/08 (Sat) 13:49 | EDIT | REPLY |   

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