大寒 次候:水沢腹堅(さわみずこおりつめる)


寒中見舞いを拝見していて、
そもそも「寒」はいつなのか、という話題になりました。
暦の上では
冬至から数えて15日後が寒の入り、
つまり二十四節気の小寒からです。

小寒の始めから大寒の終わりまでの
ほぼひと月が「寒中」、
もしくは「寒の内」と呼ばれる
厳冬期に当たります。

「寒」の時期が終わると次は立春で、
節分の日を境に
「寒開け」となります。

立春までまもなくの今時分は
俳句の世界では「春隣」という季語が使われ、
まるでかたわらに春という人が
そっと立っているかのような
穏やかな表現で、
春はすぐそこまで来ているよと告げる
その肌感覚を
とても心地良いと感じるのは
私だけではないと思います。

とはいえども
毎年、桜が咲く前には
蓮根の古い根を除き、
新しい根を適量にまで減らして植え替え
蓮の新芽の季節に備えるのですが、
お正月明け頃から
朝方蓮鉢に薄氷が張っていて、
泥の中から蓮根を掘り起こすどころか
水の中に手をいれての作業の
想像すらしたくありません。

大寒の時期には、
その寒さゆえに
雑菌が繁殖しにくいことから
味噌などを仕込むのに適した季節です。
凍り豆腐や寒天、日本酒なども
最盛期だろうと思います。
私も味噌づくりのために
麹を取り寄せました。

暦は沢の水が厚く凍る頃…ですが、
寒中の「寒」が寒い頃とはわかっているけれど
具体的にいつと言えなかったりするように、
「沢」がどんなところか説明を、と言われても
湧き水のイメージしかない
という方も多いのではないか、と思います。

私は以前、
「沢」という言葉のイメージが家族と異なり
調べたことがありました。
私のイメージが湧き水のある山間で、
家族の「沢」のイメージはまるで
私の思う「谷」でした。

調べた結果、なんと
谷と沢はほぼ同じような場所を示すことがわかりました。
敢えて言うならば
沢は湧き水やたまり水のイメージが強く、
同時に沢は谷の一部だったりもします。
湧き水や小川の無い谷だとしても、
大雨が降れば
山肌を伝わって集まった雨が
突然川になって出現することなど、
よくあることだからだそうです。

何故2つの表現方法があるのか。
地質学会の論文に
とても興味深い物を発見しました。

日本列島における、地形用語としての谷と沢の分布

10分程で読むことのできる論文ですが、
ざっとかいつまんでみます。

元々日本にいた縄文人は
採取や狩猟を主に行っていました。
その場所として、沢は大事な場所でした。
何故なら、潤沢、沢山という言葉からもわかるように
「沢」には豊かで潤っているという意味もあり、
それはそのまま
水や食料が豊富にある、という意味だったと思われます。
縄文人は文字は持っていませんでしたが
それは言葉がなかったということではなく、
おそらく自分達にとって
大切なことを示すことばはあったに違いなく、
たとえばこの「沢」も
水が騒がしい「サワ」に由来するのではないか
などと類推されています。

東北においては地名も
「~谷」ではなく、
「~沢」とついていることが多いそうです。

かわって西日本においては
沢は湿地という意味が強いそうです。
東北と同じような地形も
「~谷」と名付けられた場所が多いとか。

そもそも「谷」と言う単語の音は
水の「垂り」から来ていて、
朝鮮の古代地名では「tan」とか「ton」と発音していることから、
これは大陸から渡って来た弥生人の影響で
谷という漢字の訓読みが「タニ」となったと考えるのが自然なようです。
渡来系の弥生人は稲作と共に九州から入り
原住民と混血し、
長い時間を掛けて本州を東征してゆき、
大和朝廷をたちあげ、
その結果
縄文人達はますます東へと追いやられてゆきました。

その結果
日本の背骨と言われる飛騨山脈を境として
フォッサマグナと並行に
地名における「谷と沢の分布」は
西側が「谷」派、東側が「沢」派に
はっきり分かれているというのです。

通常の地図には書いていないような
一つ一つの谷や沢などの小さな地名も
登山用の地図には記載してあって、
それが明確だそうなのです。

谷と沢の違いをちょっと知りたかっただけなのですが、
この二文字がついている地名の由来は
壮大な日本史に繋がっていました。
平安時代の坂上田村麻呂の東北征討も
蝦夷の反乱も、
そのような事情が底にはあるのだと考えると
すんなりと理解できます。


「谷」という漢字の
東日本での古い読み方は
「ヤツ」とか「ヤ」で(例:渋谷)
山間のじめじめした低い土地を示すそうです。
そういえば、同じ漢字を読んでも
西の方では「しぶたに」と呼んでいたのを思い出しました。
東谷さんという知人も、
ヒガシヤさんではなくヒガシタニさんでした。

なるほどなぁ、と知れば知る程面白いです。



20170125_n.jpg



花: 白梅 辛夷 羊歯 蕗の薹 氷
器: 壷 浅田尚道

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2 Comments

S氏  

こんばんは。
待ち遠しい春を連想させる素敵な作品ですね。
まさにもうすぐ「寒開け」の寒い中でもわずかに春に向かう季節を感じます。

「沢と谷の違い」ひも解いていくと壮大な日本史につながるなんて
とても興味深くて感心しました。^^

2017/01/31 (Tue) 21:13 | EDIT | REPLY |   

えるて  

 S氏さま

こんにちわ ^_^

私も、沢と谷の件は
ほんとに驚きました。
同時に、
通り一遍に信じていることが
角度を変えると
全く違う世界が広がって来て、
ワクワクします。

2017/02/01 (Wed) 02:38 | EDIT | REPLY |   

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