パラダイス


五月の陽光のまぶしさに
随分前に旅をした
スペインのアンダルシア地方を思い出しました。

アンダルシアは中世
ヨーロッパで数少ない
イスラムに統治された土地だったそうです。

中東から見れば
スペイン南部はむしろ
ヨーロッパの中では一番遠いじゃないか…
と思ったのは現代に生きる私の浅はかさで、
その昔
陸路が発達していなかった時代は
地中海を船で来てしまえば
スペインの南部は
風を背に帆を張った船にとってはすいすいと、
他の地よりも侵入しやすいヨーロッパの入り口となり、
800年もの長い間イスラムの地として栄えたのです。
その後「レコンキスタ」という
キリスト教復古運動が起こり
イスラム教は排斥されました。

とは言っても建物はイスラムの時代の物が残っています。
それゆえか
グラナダのアルハンブラ宮殿などで
建物と共に庭や植栽を見ていると
ヨーロッパの他の街とは本質的に違う何かが漂っていて
ちょっと不思議な感覚に包まれます。

イスラムは
偶像を徹底的に排除しているため、
たとえば家屋においては
直線や曲線で作られた
抽象的で幾何学的な文様の繰り返しの内外装と、 
庭に備えられた池や噴水などの
豊かな水の設備や、
規則的に植えられた柑橘の樹木が印象的です。
アーモンドの花も咲いていて、
基本的に生り物を植えない日本の庭とは
何もかもが違います。

元来イスラムが育まれた中東は
砂漠の多い、過酷な自然の地です。

なみなみと湛えた水も
たわわに実る果物や美しい花々も
オアシス以外では目にすることのない砂漠地帯では
それらはそのまま憧れであり、
豊かさの象徴でもありました。

強い日差しや
砂の舞い上がる厳しい自然環境から非難するため、
堀に囲まれた安全な休息場所としての庭に
憧れが再現された結果
噴水や果樹が多いのです。
日本とは庭に求めることが違って
イスラム庭園では
プライベート空間という性質がぐぐっと強いのです。

自然が常に過酷で
人間に敵対しているなどという感覚は、
毎年の台風や土砂崩れや、
あの大きな被害を残した地震を経てさえも
日本人には希薄なように思えます。

自然は畏怖畏敬の対象ではあるものの
寄り添い受け入れることが
大元にあるかのような日本人との余りの違いに、
隔絶の感が
大河の流れのように一気に入り込んできて
圧倒される思いがしました。


現代の日本人から見れば
イスラムの人々のありようは、
聖戦としてテロや自爆をしてしまう人々や
一夫多妻で女性の人権が西欧社会より低いことなど、
正直奇異に映ります。
なかなかその心情を理解し難いと感じるのが正直なところです。

けれど、自然の有様一つ見ても
日々の生活や人の思想に与える影響を鑑みると
緑も水も豊かな私達の社会の常識は
彼らにとっては非常識かもしれず、
余りの違いに
想像も理解もし難いように、
その地域や風土に根ざして発生した宗教や習慣も又
一概に奇異だと判断するのは浅はかなのではないか、と
庭をきっかけに、改めて思った次第です。

他者を理解することは、
本当に難しいです。

でも自分を謙虚に保って
自分とは違う人達を理解できてはいない、と認識することで
しなくて良い喧嘩もずいぶん減るのではないかと
正直思います。

正しさなんて、100人いれば100様です。

古代ペルシャでは
壁や塀で 「囲われた庭園」 のことを
「パイリダエーザ (Pairidaêza)」と言い、
この言葉が英語の「パラダイス (Paradise) 」の語源となったそうです。

何にも煩わされることなく
快適な環境にいたいと思うのは誰もが同じです。

パラダイスが、各々にもたらされますように。


20170521.jpg


花: 笹 紫陽花 都忘れ 壺珊瑚
器: 瀬沼健太郎 ガラス瓶子


関連記事
スポンサーサイト

8 Comments

すべりひゆ  

こんにちは。
素敵な生け花ですね。(こう言っていいのかしら?)
繊細さが伝わってきます。
私もお花は好きですが、こういったセンスある生け方は
できず、適当な空き瓶を見つけては楽しんでいます。
時には水を変えるのを忘れたり・・・ (-_-)/~~~ピシー!ピシー!

先日は、コメント、そしてラクウショウの詳細を教えていただき
ありがとうございました。

2017/05/24 (Wed) 19:43 | EDIT | REPLY |   

えるて  

すべりひゆ さま

こんにちは ^_^


> 素敵な生け花ですね。(こう言っていいのかしら?)

御明察。

意味をちゃんと考ると
「いけばな」とか
「花材」とか
「作品」という言葉に抵抗があります。

通称だとわかっていますので、
気にしないように努めてもいます。


> 私もお花は好きですが、こういったセンスある生け方は
> できず、適当な空き瓶を見つけては楽しんでいます。

気持ち良いと感じられれば
何でも良いですよね ^_^
わたしも空き瓶使いますヨ。

逆に、
どんなに貴重で
立派な物でも
気持ちよくなければ
身近に置かないようでありたいと
思っています。


ラクウショウは私も好きで
特に紅葉して空気に溶け込みそうな感を漂わせはじめると
なんとかこの空気感をそのまま家に持ち帰って
器に放てないものか、と
毎年思います。

沼に生えるラクウショウの写真を拝見できて
眼幅でした。得心がいきました。

綺麗な物を拝見させて頂き、
ありがとうございました。


2017/05/26 (Fri) 16:57 | EDIT | REPLY |   

nonohana626  

ありがとう

「海外旅行にいくなら、まずスペインへ」と、学生のころには考えていました。
でも、事情があり、アメリカ通いで、歳を重ねています。

「正しさなんて、100人いれば100様です。」
共感です。
そして、拝見したお花、この緊張感、この安らぎ、いい朝を迎えさせていただきました。
ありがとうございました。

2017/05/27 (Sat) 06:21 | EDIT | REPLY |   

えるて  

nonohana626  さま

こんにちわ

ありがとうございます ^_^

どうも私の入れる花は、
人をほっこりとした気持ちにはさせにくいよなぁと
腕組みをしつつ見ています。

アメリカも良いですよね。
行ったことがないうちは
ぷぅぷう言ってましたが、
住めば都。
今ではNYは大好きな街です。

来春食事の予約が取れたので、
久しぶりにバルセロナからスペインに入る予定です。
ヨーロッパにはしばしば行っているのに
本当に久しぶりで。
そんなこともあって、
思い出したのかもしれません。

2017/05/29 (Mon) 00:18 | EDIT | REPLY |   

Okano  

はじめまして。
いつも訪問履歴からお伺いしております。

お庭の考察から、和辻哲郎の『風土』に通じるお考えを展開されていて、素晴らしいと思いました。
また、おっしゃる通り、認識の限界を自覚すると、他者に対する態度は変わるものですね。
哲学的でいらして、驚きました。

2017/05/31 (Wed) 23:33 | EDIT | REPLY |   

えるて  

Okano さま

はじめまして ^_^


昨今、心が澱む時、
Okanoさまの文章を拝読し、
救われる思いのすることが多々ありました。

深いところにぐっと響いた時、
光は、思いがけなく射してくるものだなぁと
ため息が出たことです。

コメントを頂戴できるとは
想像してもおりませんでしたので、
実は相当喜んでおります(笑)

花も文章も拙くて
お恥ずかしい限りですが、
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

2017/06/01 (Thu) 01:52 | EDIT | REPLY |   

Okano  

こんにちは。
何度もすみません。

実は、貴ブログのクオリティの高さに気後れしておりました。
お花も文章も、いつも素晴らしいです。
えるて様に上のように言って頂けて、勇気づけられる思いが致しました。
こちらこそ、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

2017/06/02 (Fri) 18:21 | EDIT | REPLY |   

えるて  

Okano さま

こんにちわ

いや、びっくりしました。

そのような感想をお持ちになって下さっていたなんて。

自分ではアラが見えて見えて
時々うんざりしますし、
哲学は高尚で、頭をフル活動しても
私には容易でもありません。


閑話休題

HP拝見しました。
も、もしかすると同じ大学かもしれません…ドキドキ。

2017/06/03 (Sat) 01:37 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment

←お返事は基本当ブログ内で致します。ご面倒をお掛けしますが再度お越し下さい